体力の回復には個人差がありますので、ゆっくり疲れを取りましょう。こころの電池が足りなくなったら、子育てはパートナーに任せて、休みましょう。
産後はゆっくりと体力の回復を
英国王室のキャサリン妃は、出産当日に退院しました。これは日本以外では特別なことではありません。経腟(けいちつ)分娩(ぶんべん)の場合、元気なお母さんは、出産当日からでもおうちでの生活が可能なぐらいで、医学的に治療が必要なもの以外は、時間が解決する自然の経過なのです。でも、授乳の度に後陣痛(こうじんつう)(子宮収縮)の痛みがあったり、会陰切開・裂傷(れっしょう)の傷が痛んだり、骨盤の痛みや腰痛があったり、おしっこが出にくかったりと、何かと不調なこともあります。初めての出産の場合は、こんな状態で赤ちゃんとの生活がスタートできるんだろうかと不安に思うこともあるでしょう。幸い、日本は先進国の中では比較的長く入院する習慣のある国ですから、入院中にからだの不安については十分に相談しておきましょう。
一方、体力の回復という意味では、個人差がとても大きく、その日からすぐ赤ちゃんのお世話以外の家事もこなせる人、疲れが取れず赤ちゃんのお世話だけでも精一杯という人など、さまざまです。疲れが取れないうちに頻回(ひんかい)の授乳などのお世話が始まると、場合によってはこころの充電が足りなくなることもあります。最初から張り切り過ぎないで、まずはゆっくり疲れを取ることも大切です。
帝王切開でお母さんになったあなたへ
お疲れさま。立派な仕事をしましたね。帝王切開に至(いた)る理由はさまざまですが、赤ちゃんのためには最良の選択だったはずです。どうぞ胸を張って、立派に産んだ自分を誉(ほ)めてほしいと思います。産後しばらくは赤ちゃんどころか自分のからだのことで精一杯でしょう。からだの回復に少しだけ長く時間がかかるため、母乳の分泌(ぶんぴつ)開始も少し遅くなります。お母さんの健康が赤ちゃんにとっての一番のシアワセですから、まずは十分に休んでからだも心も回復させてから、ゆっくり赤ちゃんとの生活をスタートさせましょう。
産後のお母さんのこころの悩み
大きな仕事を成し遂(と)げた充実感、新しい家族が増えた喜び、とにかく出産から1〜2日はシアワセな気持ちが心を満たしてくれるでしょう。ところが、出産から2〜3日するとなぜかブルーになる女性が多いのです。ちょっとした一言など、以前ならまったく気にならなかったようなことで突然涙が出てきたり、思うように母乳が出ないだけで悲しくみじめな気持ちになったり、あのシアワセな気分はどこに行ったのかと思うぐらいブルーになる人もいます。これは「マタニティー・ブルーズ」という産後3日〜約10日間に起こるこころの変化で、ホルモンの急激な低下が一因(いちいん)といわれています。
ほとんどの女性は10日ほどで自然に回復しますから、とくに治療はしません。悲しくなったり涙が出たり焦(あせ)るような気持ちになったりとても疲れて食欲が落ちたりしたら、マタニティー・ブルーズのせいにしてしまいましょう。楽しくなることを努めて見つけたり、赤ちゃんはお父さんに任せて、えーいっと寝たりして、ブルーが通り過ぎるのを待ちましょう。
もうひとつ、産後のこころの問題に産後うつ病があります。女性の生涯を見渡すと、人生で二度、うつ病を発症しやすい時期があります。ひとつは更年期、そしてもうひとつが産後です。ホルモンの変化の影響もありますが、家族が増えてお母さんの仕事も増え、大切な赤ちゃんのことを心配するあまり、こころがオーバーワークになって電池が足りなくなってしまうようです。マタニティー・ブルーズとは異なり、産後2週〜1カ月以内に急激に発症します。何をやっても楽しくない、笑顔になれない、自分は母親失格なのではないかと思ってしまう、突然理由もなく不安になったり怖くなったりした、悲しくてみじめな気持ちになることがある、涙が出る、眠いのに眠れない… この1週間ぐらい、このような気持ちで過ごす時間が増えているなら、出産した病院や、赤ちゃん訪問の保健師さんに相談を。「私が産後うつ病!?」と情けないような悲しいような気持ちになって、相談をためらってしまうかもしれませんが、早く発見して治療すれば、数カ月から1年でよくなります。
産後うつ病になるということは、お母さんが十分にがんばってきたことの結果です。お母さんのこころの電池が早くたまるように、子育てをお休みすることも大きな効果があります。子育てをお休みするのは、お母さん失格ではなく「お母さんパワーアップ」です。こうなったら、いよいよお父さんの出番です。すべてお父さんが主体的に赤ちゃんのお世話をするぐらいのつもりで、ちょうどいいぐらいです。子育ては「ふたりでやるもの」にしてしまってください。