妊娠中はいつも貧血になりやすい状態にあります。鉄剤を使って補うことも可能ですので、かかりつけ医と相談してみてください。

北澤正文先生
北澤正文先生
とちぎメディカルセンターしもつが 病院長

妊婦は貧血になりやすい

貧血は、血流に乗ってからだ中に酸素を運ぶヘモグロビンの量が不足したり、変形したりすることによって起こる病気です。ヘモグロビンは血液中の赤血球に含まれる成分で、鉄と蛋白質(たんぱくしつ)でできています。貧血になると、動悸(どうき)、息切れ、頭痛、めまい、立ちくらみ、倦怠感(けんたいかん)など、さまざまな症状が現れます。ほとんどは体内の鉄不足によって起こる鉄欠乏性貧血です。妊娠中は、赤ちゃんの血液をつくる材料となる鉄が、胎盤(たいばん)を通じてお母さんのからだから運ばれてきます。妊婦さんは常に貧血になりやすい状態なのです。特に妊娠中期から後期になりやすいため、1日20mg程度(非妊娠時は、1日12mg〜15mg)の鉄を摂(と)る必要があります。妊娠30週以降になると循環血液量が30〜40%増加するため、血液が薄まった状態になり、軽い貧血になる人が多くなります。これは病的なものではなく、生理的な貧血といって、赤ちゃんの発育に最適な環境なのです。ただし、さらに貧血が進んだり、逆にヘモグロビン量が多すぎる場合は、発育に影響が出てきますので、妊婦健診でチェックしましょう。

鉄剤の服用で補うことも

レバーやほうれん草には鉄が豊富です。豚レバーの串焼き1本(80g)には10.4mg、ほうれん草のおひたし1人前(50g)には1㎎の鉄が含まれています。これだけで1日の必要量を賄(まかな)えてしまいそうですが、実は食品に含まれる鉄のうち吸収されるのは10%程度なのです。また、食品に含まれる鉄は吸収されやすいヘム鉄と、それだけでは吸収されにくい非ヘム鉄があります。ヘム鉄は動物性食品に、非ヘム鉄は植物性食品に多く含まれています。非ヘム鉄は、ビタミンCと同時に摂(と)るとヘム鉄に変わり吸収率が高まります。ビタミンB6・B12、葉酸(ようさん)、蛋白質(たんぱくしつ)も、赤血球をつくるために欠かせません。鉄欠乏性貧血と診断されたら、食品で貧血改善をがんばるのではなく、鉄剤を服用した方がいいでしょう。種類によりますが、鉄剤1錠に豚レバー400gに相当する50mgの鉄分が含まれています。吐(は)き気や胃痛などの副作用が出ることがありますが、お医者さんに相談し、飲める鉄剤を見つけてください。鉄剤のサプリメントも多く発売されているので、利用するのもひとつの方法です。